いろんなところに住んでみる

旅の楽しみは、知らない街の日常を見ること。というわけで、いろんなとこで「ちょっとちょっと暮らし」してみます。どんなところに住めるのかなー?2018年、チェンマイ→台北→フィレンツェ→はたまたチェンマイ。2019年は...春はカミーノ(スペイン巡礼路)からのポルトガル。夏は日本。秋冬はスウェーデン。2020年夏からしばらく京都。

どうやら800kmを歩く旅に出なければいけないらしい

 突然ですが過去記事。

  

『Walking the Camino: Six Ways to Santiago』

キリスト教の三大巡礼地であるスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す800kmの巡礼路、カミーノを歩く6人の旅人を追ったドキュメンタリー映画

 

夏にフィレンツェでこの映画を観て、「いつか行きたいなー」と漠然と思ってから数か月。なんだか、突然、「いつか」ではなく「来年」行かなければいけない気になってきた。なぜ、今そう思うのかはわからない。でもこれが「呼ばれている」という感覚なのかもしれない。

 

ということで、サンティタムに引っ越したとたんに「カミーノ行かなきゃ!」という気持ちがふつふつと湧き上がってきて、ここはその衝動に乗っかってみることにした。でもなにしろ荷物担いで800kmひたすら歩く、という旅だ。私は歩くのは好きだけど、ガリガリのハイカーではないし、本格的な山歩きもしたことはない。今まで一番長く歩いたのは熊野古道小辺路(70kmを4日で)。この時は友達と一緒だった。1人で歩いたことのある最長距離は、ニュージーランドのミルフォードトラックの54km。800kmには遠く及ばない。そんで、思いついたものの、まだカミーノについてはほとんど何も知らない。

 

歩いたことのある人の話を聞いてみたい!せっかく世界中の旅人がわらわらいるチェンマイにいるんだから、きっとカミーノ歩いたことのある人がいるに違いない。できれば女子の話が聞きたい!ということで、とあるチェンマイの女子用フォーラムに勢いで「カミーノ歩いたことのある人、いますかー?いたら話聞きたい」とポストしてみた。

 

なんでも訊いてみるもんですね。やっぱり何人かいた!そして直接会って話を聞かせてもらえることになったので、経験者2人ととあるカフェで「カミーノについて語ろうお茶会」を開催した。

  

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カミーノには、数多くのルートがあって、一番メジャーなのは800kmを1か月ちょいで歩く「フランス人の道」。そのほか「北の道」や「ポルトガル人の道」「イギリス人の道」なんかもある。話を聞かせてくれたのは「北の道」を歩いたオランダ人女子と、「フランス人の道」を2回、「ポルトガル人の道」を1回歩いたという「もう、カミーノが大好きなのー!」と言うニュージーランドの女性。

 

会うことになった2人以外にも、歩いたことのある人は、みんな同じことをリプライしてくれた。

 

「人生最高の経験。わんだほー。なんつーかもう、とにかく特別な経験」

「体力がないとムリ、っていう人もいるけど、大丈夫。誰だって歩ける。私だって普段そう歩きなれているわけではないけど、できたよ。あまりいろいろ考えすぎずに、とにかく行っちゃえ!」

「そりゃ、めっちゃ簡単には歩き通せない。キツいこともある。でも、やるだけの価値は余りあーる!」

 

ニュージーランドの女性が都合で遅れてくることになっていたので、先にオランダ人女子の話をたくさん聞いた。すごく話がうまい人で、ユーモアがあってさっぱりしていて、聞いていてとても楽しかった。彼女はもともとフランス人の道を歩き始めたけれど、人気のルートだからか、たまたま混雑した日に当たってしまったのか、同じ日にスタートした人が300人近く(!)いたらしい。それで「アルベルゲ」という巡礼者用の宿でベッドを確保するのにすごーーく苦労したので、途中で北の道に変更したという。

 

「2時ごろ町に着いたら、もうどこのアルベルゲもいっぱい。12時すぎには、もうベッドがなくなっちゃうこともあった。そしたら、次の町までまた何キロも歩いて行かなきゃいけないし、行ったからって、そこで泊まれる保証はない。それで、もっとゆったりした気持ちで歩きたいと思って、北の道を歩くことにしたの」

 

それを聞いてちょっとびびる私。

 

「まあ、たまたまかもしれないけど。それに、なんだかんだいってどうにかなるものよ。カミーノでは本当にみんなが助け合うの。ともあれ、私は北の道にしてよかったな。景色はいいし、海から吹く風が心地よかったし。宿の心配をしなくていいし。ただ、ひとつ言えるのは、北の道はフランス人の道みたいな『100%巡礼路!』みたいな雰囲気には少し欠けるかもしれない。あと、車道を歩くことも結構ある。その点、フランス人の道はオフロードがほとんどだし、途中の町も巡礼路の雰囲気たっぷりだから、そのへんがちょっと違うかな」

 

宿がどうしても見つからなかったときは、たまたまキャンパーで来ている人たちの横を通りかかったときに「宿がないならここに泊まる?」とキャンプに混ぜてもらえたそう。「ベッドも作ってくれて、私たちの分まで食事も作ってくれて。楽しくて、もう最高の日になった」

 

「カミーノ歩いてるときは、出会う人と、もうカミーノの話しかしないの。考えてみれば異様よね。毎日、話すこと100%カミーノよ。頭の中ぜーんぶカミーノなの」

 

「カミーノ歩いてる人って、びっくりするくらい足のことばっか話してるのよ。脚じゃなくて足ね。マメの扱いについてはプロになれるわよ。私、初日にマメ7コできたから。まあ、マメは避けられないからね。マメできたら、針に糸通して刺して、あ、ちゃんと火であぶってからね、そして糸をマメに通しておくの。中の水を糸に吸わせて抜くのよ」

 

「そりゃ、確かに口笛吹きながら、『ほいほーい、楽勝!』なんて感じで全行程を歩けるってわけじゃないけど、別に特に鍛えてもいない、私みたいなフツーの人だって歩けるから大丈夫よ。そんな、ガチガチに準備しなきゃーっ、トレーニングしなきゃーって、考えすぎることないよ」

そういえば、リプライくれた人のなかには『5歳の息子と歩いた』っていう人もいた。

「あーいるいる。家族でカミーノ歩いている人たちにもいっぱい会ったわよ」

 

サンティアゴに着いたとき、何が悲しかったって、『私はもう巡礼者じゃなくなった』って思ったことよ。ここに着くまで1か月以上、頭の中はぜんぶカミーノだったのに。サンティアゴにいるのは、カミーノを歩いてきた巡礼者だけじゃない。フツーに電車やバスでやってきた観光客もいっぱいいるの。私はサンティアゴに着いて、ぼろぼろになった服や靴をみんな捨てて、新しく服を買って着替えたの。そうしたら見た目は、もうすっかり普通の観光客よね。そのとき思ったの。私はもう巡礼者に見えないって。それがすごく悲しかったのを覚えてる」

 

彼女のいう「巡礼者」は、本当に宗教的な意味の巡礼者ではなく、カミーノを歩いたという意味の「巡礼者」だ。でも、1か月以上、寝ても覚めてもカミーノ100%だった生活が終わってしまうと、そういう気持ちになるんだろうな。うわー味わってみたい!

 

「カミーノでは、3つのステージを経験するってよく言われてる。まず『フィジカル』。それから『エモーショナル』。最後に『スピリチュアル』。最初は、『ふーん、そう』、くらいに思ってたけど、実際歩いてみると、なかなかその通りだったなって思うわ」

 

彼女に、どうしてカミーノを歩く気になったのか訊いてみた。

「旅の最中なんかに人と話してて、『へー、おもしろそう。そうねーいつかは』って思うことあるじゃない。でもたまに『!!!それ!!!それだ!!!それ絶対やる!!』って雷に打たれたみたいに響くこともあるでしょ?私にとって、カミーノがそんな感じだったのよね」

 

めっちゃわかる。いわゆる「呼ばれてる」ってやつよね。

 

その後ニュージーランド女性が登場して、カミーノトークは続いた。NZ女性はオランダ女子に比べるともう少しスピリチュアルな想いを抱いているようで、使い込んだガイドブックを開きながら、この道はこうだった、ああだったととてもうれしそうに語ってくれた。そして

 

「大丈夫よ。カミーノが守ってくれるから。ぜひ行ってきて。よかったら、このガイドブックを差し上げるわ」

 

と、めっちゃいろいろ書きこんだガイドブックをくれようとした。いやいやいや、そんな思い出の品をいただくわけにはいきません。じゃあちょっと参考にお借りして、お返しします、というと

 

「いいのよー。ぜひ持って帰って。私はもう1冊あるからいいのよ」

 

でも書き込みもめっちゃしてあるのに、いやほんとお借りするだけで、とか、なにやら「ここは私が」「いえいえ、それはいけません」なんて、レジでごちそうするのしないのの押し問答みたいな感じになっていると、オランダ人女子、

 

「ねえ、それがカミーノスピリットなのよ。その本をあなたがもらうってのは、あなたのためだけではなくて、彼女のためでもあるのかもしれない。そうじゃない?」

 

...このねーさん、まじカッコいいな。

 

そんなわけで、使い込まれたカミーノのガイドブックが今私の手元にある。もはやカミーノマジックは始まっているのかもしれない。


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...カテゴリーも作っちゃったしね...

 

【追記】

というわけで、この記事を書いた4か月後、カミーノに行ってきました。

そちらの様子はこのブログにて。

pechinda-camino.hateblo.jp